㈱グローバル開発経営コンサルタンツ

専務執行役員 中小企業診断士 玉井 政彦

 

1. 日系人活用に関するブラジル商工会議所アンケート

ブラジル日本商工会議所(サンパウロ市)は、2011年6月~8月に「ブラジル進出企業における【日系人の活用】等に関するアンケート調査」を実施して、2012年1月付け「報告書」として公表しています。その目的は「日系進出企業の人的資源管理の現状と課題について、【日系人の活用】という視点を中心に考察し、今後の日系企業の人的資源管理のあり方に関する合意を提示する」ことであり、製造業45非製造業20から回答を得ています。出資形態については、日本側100%(完全所有)が90.8%を占め、合弁形態は9.2%に過ぎなかったとしています。同「報告書」から、下記引用の通り、「日系ブラジル人の日本語能力」の視点で適当に抜粋、要約してみます。

 

2. 日系ブラジル人の能力と評価

-ブラジル社会において日本の文化や言語に相対的に精通していると思われる日系人は、「第三文化体」(文化の橋渡し役)として在ブラジル日系企業の競争優位に資する可能性を秘めた存在である。

-日系進出企業(駐在員)は、日系社員を「第三文化体」として概ね高く評価している。

-日系進出企業は、「150万人の日系人は、ブラジル現地経営の大きな助けとなりうる」と評価する一方、「在ブラジルの日系人の<日本人の子孫としてのアイデンティティ>が年々弱まっている」と認識している。

-日系人は「勤勉、誠実、時間に正確」であることから、ブラジルで「社会的信用」を得ているが、日系進出企業はこの特性を自社の日系人社員の中に明確に見出している(日系進出企業は、自社の日系人社員を高く評価している)。

-日系進出企業は、日系人社員の能力や資質・行動等に対しても高い評価を下している。

-日系進出企業の74.1%は、「日本語手当」を支給していない(企業側は「日系人は日本語能力を有して当然」と考える傾向がある)。

-日系進出企業は、「中途半端な日本語を使える者よりポルトガル語及び英語が完璧な人材を優先している」、「ポルトガル語を公用語とし、殆ど日本語を使用していない」、「日本の本社あるいは他の海外拠点との連絡は英語によることとしており、日本語より英語の研修にポイントを置いている」など、日本語に対しては否定的・消極的な姿勢が目立つ。

-日系進出企業で「社内日本語学習コース」を設置している企業は8.9%に過ぎず、「やっていない」、「関心なし」といった回答が大勢を占めている。

-「経営幹部・管理職」として登用・採用する際に重視する言語能力について、第1位「英語の読み書きができる能力」(63.1%)、第2位は「英語を話せる能力」(61.5%)。それに対して、「日本語が話せる能力」は29.2%、「日本語の読み書きができる能力」は15.4%に留まっており、「英語能力重視」の姿勢が鮮明に窺える。但し、「言語能力は問わない」とする企業も26.2%存在した。

-「役員会」使用言語で最も多かったのは、「日本語-ポルトガル語」(通訳あり)で31.1%、次に「日本語のみ」(27.9%)が続いている。「英語重視」の姿勢にもかかわらず「英語」のみは19.7%に留まった。また「(日本人駐在員も出席する)管理職会議」では、「日本語-ポルトガル語」(通訳あり)が最多で4割近い比率。第2位は「英語」のみで28.6%、「ポルトガル語」のみも23.8%となっている。

-ブラジルにおける日本語学習者数は、日系人の増加にもかかわらず、最近数十年全く増えていない(ブラジル日本語センターによれば日本語学習者数は1965年22,000人であったが、2009年でも21,376人)。日系企業の日本語能力に関する施策が変われば、日系人が就職先としての日系企業を見る目が変化し、それが日本語学習へのインセンティブとなる可能性もあると考えると調査者のコメントがある。

-「デカセギ帰国者」を「経営幹部・管理職・ホワイトカラー職」として採用した企業は47.7%に上る。

(引用部分:太字筆者)

補足:上記の調査結果と、筆者が連載第1回目で言及した「日系研修に関するブラジル調査」で受けた印象とを総合すると次のようになろうと思われる。即ち、日本企業が雇用したいと思っている若年層は、日系3世~4世の世代と思われるが、彼らには高学歴を手にした者が多く、都市部に居住し、ブラジル社会への同化が完全に進んでいると見るべき。

日系3世、4世の世代には、特別に日本語学習を継続しない限り、日本語能力が失われている反面、日本人としてのアイデンティティが心のどこかに保持されており、日本人移民の初期段階からブラジル人によって評価されてきた「勤勉、誠実、時間に正確」の特質が今なお、失われていないことである。この特質は、ビジネス活動を円滑にする基本的特質であり、日系ブラジル人を日本語能力に関係なく雇用するとの多くの企業の人事方針は納得のいくところである。特に、日本での出稼ぎの経験のある者たちには、工場での勤務経験者も多く、「5S」、「カイゼン・マインド」を持って仕事に臨むことができることは、企業にとりトレーニングをする手間とカネを節減できるメリットがある。

<連載第5回おわり>