㈱グローバル開発経営コンサルタンツ
専務執行役員 中小企業診断士 玉井 政彦
~大手外食事業のブラジル現地進出への決め手~
-背景-
いよいよ、筆者がブラジルへの事業進出で経験したお話をさせていただくことになりました。連載第7回目の報告で、筆者が外食小売業の某大手企業に勤務していたことをご紹介しました。筆者は、当該企業本社に執行役員として2008年4月に入社しました。当時、同社は中国にファスト・フード・チェーン業態で進出しており、米国でも同社子会社が合併した某レストラン・グループのレストランも運営していました。
同社は、「世界から飢餓と貧困を撲滅する」とのビジョンのもと、「フード業世界一の企業となり、世界の飢餓問題を解決する」とのスローガンに従い、中国、米国以外の地域にも進出するべく、世界戦略展開の本格的な検討を開始したばかりでした。
進出対象国をいずれにするかは、海外進出を計画する企業にとっては非常に重要な意思決定事項となります。同社でも関係者が、アジア地域、中南米、欧州の主要国などを検討対象として、同社が保有する業態での進出を検討しました。
筆者は、自分がかつて留学し、鉄鋼会社駐在員として都合6年間を過ごした経験のあるブラジルを有力候補先の一つとして白羽の矢を立てました。筆者は市場調査を行い、ブラジルに進出することで調査結果を事業計画書の形にまとめました。業態は、「牛丼」チェーン店舗展開をすることで、トップ・マネジメントの決裁を得て、本格的な進出の手続きを開始しました。
-ブラジルへの「牛丼」店舗進出を決定づける要因-
進出を決定づける要因は、色々とありましたが、概ね次のことが言えます。
① | 当時、年間30万人にも及ぶ日系ブラジル人が常時、日本に出稼ぎに来ており、安価で牛肉を食べられることから「牛丼」を好んで食べていたこと、また出稼ぎからブラジルに帰国した若い日系ブラジル人達が牛丼を非常に好きであると言っていることから、ブラジルでも牛丼が受け入れられるであろうと考えられたこと。 |
② | ブラジルには、国民食とも言われる「フェイジョアーダ」があるが、それは日本のライスカレー、あるいは牛丼のように、ご飯(バターライス)の上に、黒豆と豚の足、耳、鼻、尻尾の部分、干し肉、ソーセージ等をニンニクと岩塩で煮込んだものをかけて食べることから、牛丼を知らない一般のブラジル人にもあまり違和感を抱かせることがないと考えられたこと。 |
③ | サンパウロ市内の日本食レストランが、ブラジルの典型的肉料理である「シュハスコ」のレストラン(「シュハスカリア」)よりも数が多いと言われるくらいに、一般のブラジル人にも日本食(特に寿司、焼きそば)がもてはやされていたこと。 |
④ | 初期段階でのターゲット市場として、サンパウロ市(人口:1,100万人)を選定すれば、同市のいたるところには出稼ぎから帰国した日系ブラジル人とその家族が数多く居住していることから、彼らを主要顧客(お客様)として確保できると考えられたこと。 |
⑤ | ブラジルには、牛肉、鶏肉、豚肉は勿論のことながら、米、野菜、香辛料などが豊富であり食材の点で全く問題がないことに加えて、若い労働力が豊富にあり、政府が毎年インフレ率をベースに決定する最低賃金をカバーすれば店舗運営をできると確信できたこと。 |
⑥ | 当時、ブラジルが政治的にも経済的にも安定してきたこと、また中間層が増大し、個人消費が順調に伸びていることに加え、2014年のサッカー・ワールド・カップに続き、2016年には夏季オリンピックがブラジルで開催されることから、ブラジルが順調に経済発展を遂げていくであろうとの見通しがあり、ブラジルに進出するにはまさに良いタイミングと考えられたこと。 |
などでした。
特に中小企業が海外に事業進出する場合には、自社の持つ製品・サービスのコスト優位性、技術優位性、商品力、現地派遣人材候補を事前に、慎重に検討する必要があります。
尚、筆者は、2008年にブラジルに進出することで、同社にとっては「日系移民100周年」の年に南米事業を開始することになり、また南米での最初の牛丼店を開店できることから、第1号店舗を歴史的事業として位置づけ、牛丼「新世界第1号店」として認識していました。
<連載第10回終わり>